Vol.2 ものづくりと合気道の心
指導部 中村 光夫(48歳・グラフィックデザイナー、稽古歴17年)
「合気道の稽古(自己の研鑽)は道場だけではなく、日々の生活にもある」と管長が言われたことがあります。歩くこと、車の運転、人との会話、仕事…等々、自分自身がある限り他との関係性は切っても切れないものです。
私自身、企業や教育機関の広告や印刷物の制作を生業としていることもあり、昨年開催された『世界セミナー』において、広報活動の一端を担わせていただくこととなりました。
『世界セミナー』は、管長が40年という長い時をかけて指導されてきた世界各国の門人が一堂に集う、天道館創立以来初めての催しです。その開催にあたり、ポスター、パンフレット、Tシャツ、看板、記念グッズの制作が決定したことで、私の道場外での新たな稽古が始まりました。
オリジナルTシャツのデザインは昨年春先より案を練っていましたが、なかなかこれといった精度のものが仕上がりませんでした。外部の仕事であれば締め切りが決まっているので、それに則してクライアントの希望をできる限り引出し具現化していくため、ほとんどがスムーズに進行します。一方、天道館においてのものづくりは、自分自身と向き合うことから始まります。それは、管長の描くイメージのみでなく合気道をいかにひとつの意匠に具現化するか、天道流合気道をいかに世に伝えていくか、自分自身がクライアントでもあるからです。
制作にあたって重要なのは、統一感のあるビジュアルイメージを創ることです。毎度のことですが、「これだっ!」というものが形になるまで、出口の見えない長〜いトンネルの中に入り込んでしまったような悶々とした日々を過ごします。
今回、そのトンネルに光が差し込んだのは、若先生の「管長が歩く姿のシルエットってどうですか?」のひとことです。管長の40年の歩みと、これからも続く道程がうまく表現できれば……。ようやく出口が見えてきました。
ロゴマークが決まってからの各アイテムの制作は一気に進み始めました。道場の屋上の40周年の看板は、永井先生がロゴマークをコピーで拡大し、白いシートに貼り付け一文字ずつカッターで切り抜き(永遠に終わらないのでは…と思ってしまうほど気の抜けないつらい作業です)、道場内で青いボードに貼り付けた後、門人の鹿能さんの協力で設置しました(鹿能さんが何のためらいもなく屋上の柵を越えて身を乗り出し看板を取り付ける姿は、男ながらに惚れました)。パンフレットには、管長の若かりし内弟子時代の貴重な写真と現在の管長がうまく協調し合うよう、同じ状況で若先生が撮影しました。また、本文の英訳はビルギットさん、ヘンリーさんが担当して下さいました。出来上がったパンフレットに管長をはじめ、門人の方々からお褒めの言葉をいただいたことは私の大切な宝物となりました。
私にとってのものづくりは、合気道の稽古にも通じる人や物との対話(読み合い)、そしていかにそれらと融合し発信することができるか、それにつきると思います。